つるかめ助産院 小川糸

つるかめ助産院

まりあは失踪した夫を探して、ふたりの思い出の南の島を訪れた。
そこで出会った島の助産院の先生から予期せぬ妊娠を告げられる。
自分の出生に暗い影を持つまりあは、自分が子を宿したことに戸惑い悩む。
そんなときに出逢うことになる島の人たち。助産院にはいろんな人が集まり、それぞれが抱える痛みもあることを知って、まりあは命を授かった母としての自覚を深めていく。

小川糸の第4作は「出産」「命」がテーマ。
今作も心情に深く訴えるような素晴らしい内容でした。

人にはそれぞれなにかしらの暗い過去や悩みは持っているもの。
どんなに暗く辛いことでも、小川さんが描くとその先には明るい光が見えてくるような、
そんな希望の光が文章に表れていてとても好きです。
決してご都合主義的な結末にするのではなく、現実から逃げずに生きていく、
そんな思いが今までの作品を通して伝わってきます。
この「つるかめ助産院」もそうです。

妊娠したことへの恐怖と喜び、そして出産への不安、生まれたあとのこと・・・。
ひとつの命を授かることに、女性はたくさんの感情と向き合うことになります。
男はそんなことも理解できずに、ただ横で眉を八の字にして見守ってあげることしかできない。

いや、それが男と女というものなのかもしれないですが、
この本を読んで、少しは女性の気持ちを窺い知る、ということはいいことかもしれないです。
「助産院」というキーワードで、男性はこの本を手にすることは少ないと思いますが、
ぜひ男性に読んでもらいたい本だと思いました。

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