”国境の長いトンネルを抜けると雪国であった”
親譲りの財産で、自由気ままな生活をしている島村は、雪深い温泉町で芸者の駒子と出会う。島村は許婚の療養費を作るために芸者になったという、駒子の一途な生き方に惹かれながらも、島村はなぜか一線を越す愛を持とうとしない。
そしてまた一方で、島村は涼しげな葉子の美しさにも惹かれていた。
ふたりの女に心揺れる男と、島村をめぐる女の物語。
"国境の長いトンネルを抜けると雪国であった"
という名文句から始まる、文豪・川端康成の名作『雪国』。
その時代の美しい日本人の姿と風景が描かれる中に、
男と女の妖しくも哀しい関係が、時に切なく時に激しく、
読む者の心を揺さぶるような、美しい文章で綴られた物語。
山に囲まれた田舎の温泉町、
すべてを白く埋め尽くす雪景色、
重なりが見分けられない国境の山々、
体を掬い上げられるような天の河、
そして天の河に炎が届きそうなほど燃え盛る火事。
こうした彩り豊かに表現する描写は、まるで映画を観ているかのように、
文章を目でなぞると風景が鮮明に脳裏に映し出されていきます。
烈しい愛情表現の中に、どこか憎めない可愛らしさを持つ駒子、
それに対して、甲斐甲斐しくどこか涼しげな葉子。
風景の彩りと同様に、人物の性格も対比させることで、
アクセントをつけて読み手にインパクトを与える手法は見事としかいいようがありません。
昔の小説ということで、どこか敷居の高い作品では?と思っていましたが、
流れるような文章と物語の展開に、あっというまに読み終わってしまいました。