ファミリーツリー

ファミリーツリー 小川糸

毎年夏休みにやってくるリリー。流星はリリーが来る夏が楽しみだった。
流星の実家は旅館で、1つ上の姉とリリーと3人で無邪気な夏を過ごす。
旅館を営む料理が上手なひいおばあさんの菊さんや、いつもユニークなスバルおじさんたちに触れながら、3人は成長していく。
子供の頃、誰もが感じた甘酸っぱい思い出と、信州は穂高の美しい自然を舞台に繰り広げられる物語。

本を読みながら、自分の子供のころを終始思い出さずにはいられないセンチメンタルジャーニーな気分に。
小さい頃に感じた家族や友だちへの想い、毎日走り回っていた故郷の景色、なぜか忘れられない小さな出来事。
そんな香りがいっぱいつまったとても素敵な本です。

小川糸さんって、大人になって忘れかけていた心象風景を上手に文章として描き出す天才だと思う。
たぶん、感受性の豊かな人なんでしょうね。

たとえばこんな文章。
実家の古い旅館を表現する文。

“どことなく薄暗くて、色褪せた赤い絨毯が敷かれていた。ロビーには大きなシャンデリアが吊るされ、玄関先には、宿泊客が外出時に履くための下駄がずらりと並び・・・”

と、こんな感じ。
若い人はこんな旅館の風景見たことあるのかな?と思うと同時に、それがわかる自分は、もしかしたら良い時代に生まれたのかもしれないと誇りにさえ思える。

そして、一緒に住んでいるひいおばあさんの菊さんの料理は子供たちに大人気。

“卓球のボールくらいにまるめて揚げた菊さんの特製コロッケは、カレーやハンバーグなど並み居る強豪がひしめく中でも、子供たちに人気ナンバーワンのおかずだった。”

自分が子供だったころ、母が作るごはんをそんな風に思っていたし、晩ごはんのおかずが何か毎日が楽しみだったなぁ。
自分はコロッケではなかったけれど、その懐かしい自分の想いに再び触れることができて、読んでいて鼻ツンして涙が溢れてきました。

毎年の夏に都会からやってくるリリーとの思い出を、ほほえましいエピソードとして描き綴られています。
そのひとつひとつの出来事を読みすすめるうちに、自分の子供のころのいろんな思い出が蘇ってくるんです。
この本に出会ってなかったら、きっと一生思い出さなかったかもしれません。

本の値段、千円ちょいでそんな想いにさせてくれたこの本に感謝、です。

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